拓也は酷い鬱病を患っていた
頭の中にボーリング玉サイズの鉛でも入っているのか、それが入っているのなら原因は分かっている。
家から仕事場まで走る一本の電車が拓也の命を運んでいる。車窓を覗き込み、車内と外界を隔てる頑丈そうな境界線にゴン…ゴン…と何度も頭をぶつけてみる。不眠無休の拓也にとっては目覚まし時計の変わりでもあるのか。これもまた日々の習慣である。
[死ぬならこの場所で死のう]
やがて自分の墓場か、どちらにせよ生死を決めるあろう場所を通り抜けていく。
その場所とは人が立ち入る事の出来ない場所にある。その場所は、発達し尽くされた現代社会に反発するよう、自由気ままに季節変わらず変化せず存在している。
たとえ電車内が馬鹿者達の宴の場になっていようともその場所はいつも変わらない。