[普通そこは切らないでしょう]
私の手首を凝視して医者がわめいた。
[で、どんな状態なの]
小太りの医者は、机を一つ挟んで高そうな椅子に座っている。同じ目線なのに、少し上から見られているのは気のせいだろうか。
[頭の中に鉛が入っているようです]
私は一時間も待った事に少し苛立ちを感じながらボソッと呟いた。
[鉛が入っているって頭が重たいという事なの]
[えぇそんな感じです]私は始めて、心療内科に来た事を後悔し始めていた。
[あなたは初診なので詳しく聞きたい…家族構成は…うん?えっと…兄弟はいるの]
[えぇ姉と妹が…]
[という事は長男だね]
医者は手元に置いてある用紙にペンを向け、テレビ等でよく見る簡単な人間を描きはじめた。
[長男か…]線を一本横に引いてさら上下に引き姉と妹の絵を描いた。全て同じ絵だ。
[先生、僕は頭が重たいので僕の絵だけ頭を大きくしといて下さい]
私は本気で言った。社会や学校を連想されるその絵図に嫌悪感を抱いたからだ。
医者は聞かないフリをし私にいくつもの質問を浴びせた。
その後の記憶は曖昧だ。記憶にあるのは薬を貰った事と、医者との距離感に気づいた虚しさだけである。