しばらく、俯いていると、目の前にコーヒーカップが現れた。

「ホイ」
「・・・・ありがとう」

こういう時、自分が子供だと思ってしまう。
自分に対する怒りや、答えの得られない怒りがあった筈なのに自然と、喜んでいる。

「なぁ、ミノル。おまえだったら、普通に走っても、そこそこイケる?だろ?」
「ここが、壊れない走りで?」

ボクはガラクタを突きながら、言う。

「オイ。あんまり、触るな。何が引き金なるか、分からないゾ」
「自分の身体だから分かってるよ」

ボクはそう言いながら、分かりたくないと思った。
分かってしまえば、本当に走れない。

分からなければ・・・。
知らなければ・・・。

ボクは走る。

「ふぅ。ミノル、走る事は別に悪い訳じゃあない。上手に走れば、心臓に負担もない」
「知ってるよ」
「・・・死にたいのか?」

おじさんはズバっと言った。
医者でこんな事を言う人はこの人ぐらいだ。

死にたい。
・・・なんて思わない。

走る事以外でも考えた。

水泳。
バスケ。
サッカー。
野球。

出た答えは、身体に心臓に、負担を与えないスポーツ。

結局は何も出来ない。何も許されない。
だから、ボクは考えた。
10秒以内で、終わるスポーツ。

それが短距離走。

50メートルという、儚い距離。

夢を賭けて良いじゃあないか! 平凡な中に、奇跡を見て良いじゃあないか!

ボクは俯いた。
コーヒーカップを持ったまま、ベットに横になる。

おじさんが焦っているのが、視界の端に見えたけど、コーヒーは零れない。

横になった瞬間、コーヒーカップも横にした。
幼い頃、習得した技だ!
ガラクタのせいで、ベットの上で色々と習得した。食事をさせるんだったら、ベットの上の方が綺麗に食べる自信がある。と、言っても、何も自慢にもならないけれど・・・・

「おはよう」
「ハルカ、起きたかぁー」
「うん。起きたぁ。ミノルくん、おはよう」
「・・・おはよう」

ボクは、横になったまま、ハルカに挨拶をした。

ハルカは同級生で、不登校児だ。色々な理由から、学校には、行きたくないらしい。
詳しい事は、聞いていないが、ボクはハルカが好きじゃあない。