暫くしてエルダはフォルを離すと、思い出したかの様にメモを取り出した。
その動きを横目で見ながら、フォルは欠伸を一つし、いつの間にか用意されていた珈琲に口を付けた。

「今日も特に変わった予定はないですねー。孤児達を引取りたいって方も特に見つかりませんし」

エルダの話を半分ほど聞き流し、フォルは着替えまであっという間に済ませでしまった。右手のあったであろう場所を見る度に、エルダが多少引きつった笑みを浮かべるので、着替えが早くなったのも知れないが。

「あ、彼女は元気かい? ロス・ヴァイセは」

フォルは思い出した様に、西の聖堂を見遣った。
ロス・ヴァイセはつい最近、彼が拾ってきた戦争孤児だった。妙に大人びていて、引き篭もりがちで、あまり他の子供達に馴染んでいない様であった。
フォルはそれを心配しているのだ。

「体調には問題ありませんよー。足の傷も化膿してなかったので」

エルダはにこりと微笑むように、ベージュ色の瞳を細めた。朝の風にピンクベージュの髪が柔らかく揺れた。
この教会を訪れた者が口々に女神を見た、と言うのは、エルダを見たからであろう。其れ程、彼女は美しい女性である。