「もしかしたら、父上を半分殺して一番哀しむのは父上かもしれない」
 初めて悲しい顔を一瞬見せた。

「もしかして…」

焦りの表情を見せるケイ。恐らく絵美がやろうとしている事に薄々気付いたのだろう。

「父上。あたしは人間として産まれて来た。天使になって辛い思いをした。父上にとっては辛いかもしれないけど、あたしにとっては今しようとしていることが有り難い。
だから、ごめんなさい。生まれたその日に親不孝をするあたしを許して」

いつになく寂しい表情を見せる絵美に、再びぼろぼろと涙を流すケイ。

薫も気付いてしまった。
ケイが死に、絵美も死んでしまうことに。しかし、やはり絵美と同様、ケイには辛いことだが、それが一番の選択だと思ってしまった。

「エミ…」

ケイがゆっくりと絵美の隣へ移動する。

「俺が我が儘さえ言わなければこんなことにならなかったはずだ」

呟くように言って絵美を抱きしめる。優しく優しく…。ミアに対するそれとは別の愛情を込めて。

「でも、心配しないで。死ぬのは半分だけ過去の記憶も全部残るから」

宥めるようにケイへ伝えて、自分も軽くケイを抱きしめた。

「それに、きっとほんの一瞬だけ、天使になれるから」

そこに鏡があるから、自分の羽を最後まで見ていてねと付け加えた。