「よかった!また少し食べられたのね」

一人で食べられるようにベッドのすぐ傍に小さなテーブルが設置された。
今の所食べられるのは晩御飯のみで、朝や昼ご飯は何も手を付けることがない。

それでも毎食、薫は食事とオシボリを運び取りに来る。
そして今回のように、少量でも心から喜んでくれた。

卒業式が過ぎてから初めて食べ物を口にしたときはあまりの喜びに目を潤ませた。

その喜びがわざとではないことに絵美もまた喜び、少しずつではあったが期待に応えようと生気を取り戻して来ていた。


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五月に入った頃隆彦が会いに来た。
また会いに来ると言っていたものの、長い間訪れなかったため不安が頭から離れなくなっていた頃だった。

「…絵美」

部屋に入り、ゆっくりとベッドの傍に座る。

「飯、食えるようになったって聞いたけど、体調はいいのか?」

上半身を起こして手探りで隆彦の体を探し、小さくもしっかりと頷いた。

「元気になって来たって聞いて、これ持って来たんだ。」

そういって小さな紙袋から出したのは横幅二十センチほどのホワイトボードだった。

「筆談しようぜ?」

太めのサインペンを絵美に持たせて膝の上にボードを置いた。

「さぁ、なんの話をする?平仮名で一文字ずつ重ねて書いてくれていいから。ちゃんと見てるから」

ボードの場所とサイズを確認して、ゆっくりと文字を書き始めた。