「ヤダァ、話を逸らさないでよ」
「変な奴だな」
うふふと笑いながら彼の横に移動する。
「どうしてこんな所まで来たの?私はちゃんと理由を言ったわよ?さぁ、あなたも理由を教えて?」
悪魔は真っ黒な髪の毛をごしゃごしゃと掻き回す。随分と言いづらい内容のようだ。
「天使の…天使の世界を見てみたかったんだ」
拗ねたように言い放つ。
「どうでした?天使の世界は」
「ど…どうってことないな」
無理矢理吐き捨てるように言って、踵を返し淀んだ世界へ戻って行った。
‡‡‡‡‡‡
『コンコン…』
ノックの音で目が覚めた。
「絵美ちゃん、昨日の夜は何か食べられた?」
開け放たれたドアの向こうに薫の姿がある。
見えない目でじっと窓の外を見る。微かに明るい。
隆彦と久しぶりに会ってから数日の間、少しだけ食欲が戻った。昨日食べた食事は、アスパラ一口とご飯一口。