『ドンッ!』と床を殴る。
孝彦のこぶしが何度も何度も床にぶつかる。
噛み締めた歯がギリギリと鳴り、流れる涙は絵美の指を伝う。
「涙くらい流せよっ!」
痛いほどに抱きしめ、叫ぶ。
「涙くらい出せよっ!畜生!畜生!」
負けじと絵美も無表情で抱き返す。精一杯抱きしめる。表情に出せない愛情をその弱い腕力で精一杯表現する。
「元に戻せよっ!誰でもいいからこいつを元に戻してくれよ!」
あまりの哀しみに隆彦は絵美の顔を見ることが出来ない。
絵美もまた表情を作れない顔を見せたくなかった。
隆彦の恥ずかしげも無く流すその涙は、絵美の首から伝い、しっかりと絵美の心へ浸透して行く。
「畜生…ちく…しょぅ…」
隆彦の声は何もない部屋と絵美の心に何度も響き渡った。



