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薫と共に帰って来たが、その道筋も過程も殆ど覚えていない。

落ち込んだ表情を見せる絵美にかける言葉もなく、二階に用意してある部屋までゆっくりと歩く彼女を見守ることしか出来ない薫。

彼女もまた辛い過去を持っている為か、絵美に対して同情に似た言葉も発することが出来ずにいた。

部屋に入り着替えもせずにベッドへ横たわる。必要最低限のものしか用意していないこの部屋には、大きな物はベッドと小さなタンスのみ。

頭に浮かぶのは隆彦だけで、考えたくなくても次から次へと彼の笑顔が脳裏を過ぎる。目を閉じても瞼の奥にはしっかりと隆彦が映る。

――どうしてあたしが?

――何故あたしが?

仲の良かったクラスメイトも、教師でさえも絵美のことを哀れみの目で見、数歩下がった位置から、一枚壁を挟んだところから声をかけられているようだった。

何がいけない?

何が違う?

羽根が生える前と何が違う?

こんな羽根いらない。羽根さえ無ければ、隆彦とも別れずに済んだ。クラスメイトに哀れみの目で見られることも無いし怪訝な顔を向けられることもなかった。

この羽根さえ無ければ、羽根さえ――


『ーーーー切ってしまえ』