絵美の気配を感じたのか、隆彦はヘッドフォンの片耳を外す。

「何時からここに?」

目を閉じたままの隆彦が、『まぁ、ぼちぼち』と呟いた。
制服に触れると、今さっき来たとは思えないほどに冷えている。

「ねぇ?」

絵美が遠慮がちに会話を始めた。

「だめかなぁ?」
「何が?」

木枯らしが枯れ葉を数枚持ち去った。
胸まである髪を押さえながらちらりと隆彦を見る。
体の上に落ちて来た枯れ葉を手で払いながら。

「…付き合ってよ」

寝返りを打ち、絵美に背中を見せる隆彦。

「お願い、好きなの。友達に戻るなんて嫌なの」

ブレザーの裾をつまんだ。

「それは言わない約束でしょ?」

飽くまでも友達の口調でおどけたように言った。

「ちゃんと聞いてよっ、あたしは真面目に言ってるの」

絵美の隣に座り直した隆彦は、聞き取れないほどの小さな声で呟いた。

「男ってのは、体が目的で女作るやつってのがいるんだよな」

「え?」

そう言って、震えるほど拳を握り、下唇を噛み締める。
唖然として彼を見つめる絵美。