「沙耶ちん、彼氏とケンカでもした? めちゃ集中して磨いてるね」

 よほど黙々と作業していたんだろう。同僚の女の子に笑いながら声をかけられて我に返った。

 平日の昼間。アクセサリー売り場は閑散としている。
 うちのお店はシルバーがほとんどだから、暇があればひたすら商品を磨く。酸化して黒ずんだシルバーが研磨されて綺麗になっていくのを見るのは気持ちがいい。
 沈んだ気持ちもすっきりしてくる。

「ケンカしてないよ。っていうか彼氏いないから」

「またまた、バレバレだよ! みんな最近沙耶ちん綺麗になったって噂してる。そろそろ白状しなよ〜」

「そんなこと言われてもなぁ〜。みんなの勘違いだよ」

 ひたすら笑って誤魔化す。そんな日々ももう1ヶ月過ぎていたけど、私は翔梧とのことを自分からは誰にも話してはいなかった。