そんな私の心の焦りを知らずに、

 電話の向こうで息を吐く音が聞こえた。
 まるで安堵の吐息。

「そっかぁ、仕事か」

「うん……黙って帰ってゴメンね」

 短い沈黙の後に続く思いがけない言葉。

「……ダメ、許さない」

 耳元で響く低い声。

「え……?」

「会ってくれなきゃ許せないな。今日、何時に仕事終わる?」

 再び
 ゆっくりと胸に広がる。

「……遅いよ?」

「待ってる」

 あの
 
 甘い気持ち。