「もしもし?」

 画面の確認もせず、すぐに出た。

「あ、俺。翔梧」

 心の準備出来てない状態で、彼の低いトーンの声が鼓膜を震わす。電話越しの声は昨日の彼とはまた違う響きで私の脳を揺さぶった。

「沙耶?」

「あ、うん」
 
「今電話くれた?ごめん、寝ちゃってて……」

 瞬間、今朝の無垢な寝顔が思い浮かぶ。

 心に甘い何かが灯る。

「電話くれたって事は、怒ってるわけじゃないんだよね」

 彼の誤解を思い出して慌てて否定する。

「仕事中だったの。怒ってなんてないよ」

「……そう言えば、沙耶はもう働いてるんだっけ」

――もう働いてる。

 その言葉に昨日の小さな嘘を思い出す。
 私は二十二歳だということになってるんだ。もう働いていても不思議ではないはずだけど……。慣れない嘘に思わず手のひらに汗が滲んだ。