私も敢えて触れずにいたのは余計な心配や誤解を生みたくなかったから。今日、出張終わってすぐ山内さんに会ったのは。翔梧に再び会う前に、私の中でもちゃんと整理して、はっきりとさせておきたいと思ったから。

 冷静に話し合うだけのはずで、ここまでココロを掻き乱されて泣きじゃくって、しかもこの姿を翔梧に見られてしまうなんて予想外だった。差し出された傘の先から雨の雫が次々と落ちていくのを見つめながら慎重に言葉を選ぶ。

「出張前に、山内さんに告白されてて。それを、断る為に会ってたの……」

 正直に話す声が、震えていた。
 
「……こっち向けよ沙耶」

 振り返る勇気が出ないまま固まってると強引に腕を引かれて抱き寄せられる。気づいた時には唇を荒々しく奪われていた。

 飛んでいく傘。まだ止まない大粒の雨の中。人通りの多い駅前での行為に恥ずかしくて苦しくて翔梧の胸を叩いても離してくれない。新しい涙が浮かぶ頃、やっと解放された。自由になって、見上げると、すっかり雨に濡れた彼の髪は額に緩やかに張り付いていた。