「――幸せにならないと、許さない」
 
 怖いくらい真剣な囁き。ぞくっとするほどの大人の色っぽさを感じた。次の瞬間、額に唇の感触。無抵抗なままそれを受け止めた。想いが注ぎ込まれるような苦しいキスを。ゆっくりと力の抜けたカラダを起こされる。

「……さあ、帰って」

 そっと見上げるといつものあの笑顔が、苦々しく歪んでいた。

「これ以上一緒にいたら、本当に、何するかわからない」
 
 回された手のひらが、背中を押す。

「気をつけて。さよなら」

 山内さんの声を背中で聞く

「……さよなら」

 振り返らずにそう言って、早足で店を出た。同時に、空が唸りだす。