「なんで雨宿りしてなかったの? びしょびしょじゃない……」

 動揺を隠しながら、ハンカチを出して翔梧の顔を、頭を拭いていく。

「迷ってるうちにどしゃ降りになってさ。どうしてもすれ違いになりたくなくて」

 視線が逸らせなくなるくらい優しく、柔らかいそのはにかんだ微笑みに胸が締め付けられる。

「……あのまま、帰ったかと思った」

 仕事の合間、考えてたのは翔梧のことばかり。当分会えないと思えば思うほど会いたくて……。幻じゃないよね?
目の前の翔梧をじっと見つめる。

「何? 見とれてる?」

「ち……違うよ」 

 焦る私に不敵な笑み。いつもの余裕な翔梧。でもほんの少し頬が上気して見えるのは気のせい?

「一度は帰ろうとしたんだけど」

 ゆっくり瞬きした後、真面目に何かを考え込むように話し出す。
 
「どうしても、今、沙耶に話しておきたくて」

「何……?」

 何の話か思い付かなくて身構える私の頬に彼の大きな手が――触れた。