――ふぅ。

 書類を鞄にしまいながら大きなため息を一つ吐いた。緊張した本社へ出勤した初日もなんとか終了。内容は冬に向けての新作のコンセプトと企画や売り場の作り方などなど。各店舗の代表者はみんなやる気に満ちていてすごく刺激になる。この二週間はあっという間に過ぎるだろう。

 でも、きっと一人になると想ってしまう。
 彼の体温
 彼の匂い
 彼の声
 
「志村さん、一緒に帰ろ」
 
 席が近くて仲良くなった子に声をかけられて、物思いから我にかえる。

「あ、うん。いいよ」

 帰り支度をしながら携帯を手に取った。外からゴロゴロと低く響く音が聞こえた数分後、稲光と共に朝の晴天が嘘のような、どしゃ降り。

「わっ。すごい雨。夕立かな」

「最悪。傘持ってきてないよぉ」

 窓を開け、外を見ながら彼女が言う。もちろん私も持ってきてなかった。もう少し雨宿りが必要かも。翔梧は大丈夫だったかな……。そう考えながら携帯を開く。

「わっ! あの人、傘もささないで何やってるんだろ? 誰か待ってるのかな?」

 その言葉を聞いたのと、受信メールを確認したのは同時だった。

「え、嘘」

 慌てて一緒に二階の窓から覗く。見覚えのあるその姿。