目を閉じて、社会人の仮面の下に自分の気持ちを隠す。

「沙耶?」

「今行く」
 大人の顔をして笑顔を見せた。駅までは一緒。繋がる手。涙ぐむ瞳を俯いて誤魔化す。こんな涙もろい自分を私は知らない。

「今日、電話していい?」

 だから翔梧からそう聞かれた時、飛び上がるほど嬉しかったんだ。

「私もメールとか電話、していいかな?」

 今まで自分からはほとんどしなかった。ココロを許さない為に、そう決めてたから。でも、もういいんだよね?

「もちろん、待ってる」

 少し目尻が垂れる、仔犬のようなあの笑顔。

――好き。

 好き。大好き。
 そんな気持ちが素直に溢れたのは別れて一人になった時。もう見えるはずのない姿を何度も振り返って探してから、深呼吸を一つして、気を引き締めると私は前を向いて歩き出した。