「何?」

「あ、先言っていいよ」

 うまく言葉に出来なくて、譲り合ってるうちに背中からアラームが鳴ってカラダがぴくりと跳ねた。私が自分で仕事の為にセットした携帯のアラーム。

「タイムアップか……」

 その、ココロから残念そうな言葉に、私まで寂しくなる。

「そんな顔すんなよ。もう襲えないんだから」

「なっ、何言ってるの」

 翔梧の余裕の対応に、私はすぐ赤くなる。どっちが年上なんだか。誤魔化すようにベッドから降りると、カラダの熱が一気に逃げていく。この部屋はクーラーが効き過ぎる。狭い部屋の中で服を重ねていく間も、背中に視線を感じていた。

 さっき、言いかけたこと。何?
 
 そう聞き返す暇もないまま、出勤の時間が迫る。バッグを持つと、翔梧はもう玄関にいて扉を開けてくれていた。薄暗い玄関の扉の端から漏れる光が影にいる彼を儚く見せる。

『このままここにいて』

 思わず喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。ここは自分の家じゃない。会社支給のマンションだし、そんなことしていいわけない。でも、居て欲しい。このまま、この部屋に。離れるのは、まだ本当は不安で、嫌で。駄々を捏ねる小さな子供みたいに。寂しい気持ちに襲われた。