部屋は熱気がこもって暑かった。

「あっつ、むしむしするなぁ。とりあえず窓開ける?」

「うん、ありがとう」

 持ってきたインスタントコーヒーをスーツケースから出すとすぐにキッチンに向かう。
 
「コーヒー。すぐ入れるね」

 換気扇とガスコンロの火の小さな音。翔梧はそのまま窓辺に腰かけて外を眺めていた。ワンルームの狭い空間に、二人きり。意識すると落ち着かなくなる。

 翔梧がここにいる。
 同じ部屋の空気を吸っている。

 これは――本当に現実? 数時間前には考えもしなかったことが、今、起こっている。指先まで桜色に染まってく気がした。

「――そうだ」

 翔梧の呟くような声にも心臓が跳ねる。彼の少し低い良く通る声が家具のほとんどない部屋に響いた。
 
「何?」

「携帯、貸してくれる? すぐ返すから」

「えっ……?」

 悪戯っぽく笑いながら首を傾げる。

「大丈夫、悪さしないよ、ただ――沙耶のメアドと番号送るだけだから」

 手に自分の携帯の赤外線を指しながら悪びれずに答える翔梧に私は唖然とする。