「……はぁっ」

 やっと解放された唇から息が漏れる。私は泣いていた。両腕は捕らわれて壁に押し付けられた。

「――あっ、いたっ」

 押し付けられる腕の痛みがあの夜を彷彿とさせた。

「……ほら、だから近づくなっていっただろ?」

 熱のこもった瞳とは正反対の身も氷るような声色だった。怖くはなかった。ただ、悲しかった。涙流れるまま翔梧を見つめると苦々しそうに顔を歪めて目を逸らす。

「……彼氏以外にそんな顔したら犯罪なんだよ。襲われたって文句言えねぇぞ」

 荒々しい言葉、でも、悲鳴みたいに聞こえた。

「俺がお前の男なら絶対赦せない……」

 歯軋りするような小さな呟き。日は徐々に傾いてきて抱き合うような二人の影が住宅街のアスファルトに伸びていく。

 翔梧の気持ちがわからなかった。

――何故?

 また、幾つもの疑問が浮かんでは消える。