油蝉が鳴く声が住宅街に響き渡る。

「今は、俺に近づかない方がいいよ」

 背を向けたまま感情を抑えたようにいい放つ。迫力のある一言に、足がすくんだ。ほんの2〜3メートル。それが遥か遠い。しばらく続いた重い沈黙の後、少しだけ振り向いた翔梧と目が合う。

「――何……、俺……」

 何か呟いたけどよく聞こえなかった。そのまま住宅の塀にもたれて座り込む翔梧。その姿はなんだかとても辛そうに見えた。

「翔梧」
 一歩近づく。

「……今、それ以上近づいたら、何されても俺は責任とれない」

 曲げた両膝に長い腕をのせてしゃがんでる。顔は両腕に埋もれて、その表情はうかがえない。傷ついた猛獣に威嚇されてるみたいだった。

「……付き合ってんの?」

「――え?」

「前に、一緒にいた男と」

 いわゆる、付き合ってたわけじゃない。でも。告白されて、向き合う気持ちになっていたのは事実だ。今回の出張でも、ちゃんと考えようと思っていた。当たり前に側にいて身勝手な私をありのままで受け入れてくれた人。