「この辺、かな?」

 地下鉄の駅から何本目かの通りを入った所にそのマンスリーマンションはあった。

「ここみたい」

 地図を確認して、二人で見上げる。一見少し年数の経った普通のマンションと変わらない建物だった。ここが今日から二週間は私の家となる。

 家を出たのもゆっくりだったから、時間はもう夕方。7月終わりの太陽はまだ少し傾いてきた所だった。

 大通りが近いせいか排気ガスと夏の蒸した匂いがする。ノースリーブの肩がじりじり焼けるほどの暑さ。繋いだ手も汗ばんでる。
 しばらく二人、黙って立っていた後、翔梧がスーツケースを持ち上げる。

「何階?」

「え、いいよ。私もっていくから」

 深い意味なく、本当に申し訳ないと思って出た言葉だったけど、気まずい雰囲気。

「あ、そう」
 そう言った翔梧の表情が、胸に突き刺ささるほど悲し気だったから。