「敬語はいらないよ。じゃあお礼に……俺と一緒に飲んでくれる?」

 微笑みながら可愛らしく小首を傾げた、何気ない誘い方だった。明らかに相手に困らなさそうなのに、上手くそれを感じさせないような。

「うん……いいよ」

 だからなんの躊躇いもなく返事をした。

――よかった。

 素直に嬉しそうに笑う顔が私の二重ロックの掛かった心の鍵を上手く開かせた。今、振り返っても不思議だ。あんなにするりと私の中に入り込んで来たのは、彼が初めて。