今、私が彼に何を言ってもきっと伝わらない。

「行かないんですか?」

 哀れんだように、彼女が言う。私は力なく首を横に振る。

 本当の彼を見た気がしたあの夜から、ずっと囚われた私とは違って、自由になった翔梧は遊びまくっていたんだ。現実はあんまりに残酷で、膝をつけて茂みに隠れた自分が、みっともなくて情けなくて笑うしかなかった。
 
 膝にめり込んだ小石の痛みを感じながらその完璧なほど美しく魅力的な彼の背中を茂みの間から見送る。
 不思議と涙は出なかった。

 ただ、彼と私を隔てるものの大きさに
 強い寂しさを感じていた。