「今、忙しいんじゃないんですか?」

 ほろほろと口のなかで溶けていくお肉を味わいながら聞く。ずっと気にかかっていたのだ。

「ん? まぁ、忙しいかな。……実は昨日も泊まり込み。あ、でも一旦帰ったしシャワーも着替えもしたよ?」

 本当に、何でもないように笑って話す山内さんをみて、胸が苦しくなる。……やっぱり。代理店営業マンはとにかく忙しいって佑香が言っていた。

――だから、無理して時間つくってまで沙耶に会いたいんだよ!

「でも、不思議と沙耶ちゃんの顔を見ると元気がでるんだよね」

 佑香の言葉と重なって、私はまっすぐに山内さんを見られなくなる。

「僕が勝手に誘ってるんだから、気にしないで。さぁ、もっと食べなよ。つぎ、これ頼もうか、めっちゃ美味しいから!」

 きっと気づいているんだろう。山内さんも。
 会わなくても会えないからこそいつも翔梧が私の中にいた。

 もう見えないくらい綺麗に消えたあの夜の傷が深く深く
カラダの一部のように刻み込まれて、今も私は、まだ翔梧への想いを胸に抱いていた。