鉱山の入り口を前に、ストークが一歩進み出る。

くるりと振り返り、両手を広げた。


「…ここが『境界線』」


ザァッと木々が揺れ、木の葉が舞い、サラサラと砂が流れた。


「…!」


『境界線』の意味にジェイドが気付いた。

ストークが両手を広げるその指先の線上で砂の流れが止まり、背後には静寂が広がっている。


「ここに『穴』を開けて入り口を作る、準備はいい?」


全員がこくりと頷いた。


入り口を保持するのはミアの役目。しかしこの強力な結界に穴をあけるのは骨が折れる。


自分の役目だと分かっていたのだろう、カロンがそわそわと、視線をおぼつかせる。

ミアがふっと笑って、その手に握られていたロッドをカロンに差し出した。


「!……お借りします」


ちょうど三角形を作る形になった。

頂点にカロン、後ろにミアとストークが控える。


青い貴石のはまったそのロッドの名を「ヴァイゼ・ロッド」と人は呼んだ。

ヴァイゼとは孤児[みなしご]の意。素性の知れない、その孤高の石を、畏敬を込めて人はそう呼ぶ。

…ヴァイゼ・ロッドの物語はいくつかあるが、その話はまた後だ。


「行きます――――――」


カロンが声をかけた。


「オーケー」


「どうぞ」


――――二人の相槌を合図に、カロンがロッドを掲げた。


その色と同じ淡い青色の輝きが、杖の先から、そしてカロンの全身へ広がってゆく。

全身に魔力が行き渡る感覚に、カロンが普段の可愛らしさとは裏腹の…歪んだ笑みをもらした。


その途端、後ろ頭に小石がコツンとぶつかり、振り返った少年はカノ―と目が合う。

カノ―が見てみろと言う風に顎をしゃくる。


その先にはミアとストーク。


2人はすでに集中に入り、『境界線』に向けてミアは片手を、ストークは前傾姿勢に両手を突き出していた。

ストークに至ってはこの後入り口を保持するミアを気遣ってか、風を使って魔力をサポートしている。



『まじめにやんなさい』



カノ―のくちびるが、そう動くのが見えた。