ブォー……ォー…

汽笛がなり、大きな船がタイリスの港に入ってきた。

大国、ジャド公国からの定期船である。

伝染病騒ぎで定期船は制限されていたが、この船は特別であった。

甲板には2つの影。


…異様な格好と言っていい、黒い鎧に過度の装飾。

全身を覆う黒い甲冑に、背負う大鎌は死神を連想させた。


「ねぇん兄貴?ストークは連れて来なくてよかったの?」


細身の影が問いかける。


「……出港の制限がかかる前にタイリス入りしているはずだ、まずは奴に状況を聞こう」


『兄貴』と呼ばれて応じたのは、大柄な男。

筋肉もそうだが、骨格も標準の大きさではない…。


「カ、カノーさんっ!そろそろ降ろして下さいよぉ~…」


ボーイソプラノ。人影は2人だったが、もう1人。


「あらんカロちゃ~ん?お姉さんのココは気持ちいいでしょぉ~?」


「なにがお姉さんですか!僕はカノーさんより年上ですよ!?」


グラマーな女性の胸の谷間に少年がいた。

ジタバタと抵抗するものの、女の腕力は余程強いのかビクともしない。

耐えかねた少年は一瞬身体を光らせ、魔法の力で女の手から抜け出した。


「もう、ツレないコねん」


地に足がつくと、身長は女の腰から下、大男からみれば膝から下の可愛い少年だった。

カロちゃんと呼ばれていたのはカロン。

幼いのではない、歳をとれど姿に変化の少ない種族なのだ。

大男、美女、子供。


並んでいたとしても、家族にも見えない…。


「…着いたな」


ぐんぐんと陸が迫ってきていた。


船が港に到着し、3人が船から降りると同時に1人の男が出迎える。

タイリスの守衛である。


タイリス共和国…領土こそ狭い国だが、鉱山による富と、発明、技術力によって栄える国である。

その分魔道に関する知識は低いと言えたが、魔力を秘める鉱物からエネルギーを抽出する技術は、様々な発明を生んだ。

守衛に簡単な国の説明を聞き、お互い一礼をして別れる。

巨体は遠ざかる守衛の背中を見送った。