「兄ちゃん、僕今日はみんなにノロマって言われなかった」


嬉しそうに話す弟。


「これが兄さんの居る世界なんだね、やっと僕も同じになれた」


その笑顔に一抹の不安が胸をよぎったが、俺はワシワシと弟の頭をなでてやった。


「そりゃあ良かった」


弟に微笑みかける。


「でもお前のノンビリしてるとこ俺は好きだし、悪く言う奴らまで許しちまう優しいところがお前のスゲーとこなんだからさ…」


変わらないでくれよ、と語りかける兄の言葉に、いつもなら元気よく二つ返事が帰ってくるはずだった。


「…僕にもう慰めは必要ないよ」


慰め?いや、俺が伝えたいのはそんなことじゃない…

兄の気持ちをよそにオニキスが続けた。


「『優しい』なんて要らない、ずっと僕は優秀になりたかった」


「!」


ヒュッと音がして、テーブルの上にあったガラスコップが目の前をよぎる。

オニキスが、
自分に向かって、
投げつけた。


カチャンッ


「…オニキスッ!いきなり何しやがる!」


「あは、兄ちゃんなら避けれるよね、分かってたよ」


オニキスは口元に笑みを浮かべたまま告げた。


その瞳は…優しさを讃えていたこげ茶の瞳は、今は闇色に染まっている。


「あいつらは避けれなかったよ、馬鹿にしてた僕に手も足もでない……ふっ、あはははっ!」


弟がコワれてしまった、おそらくは…あの石のせいで。