「どこ行くの?」
「どこって……」
「帰るとこ、あるの?」
首を左右に振った。
何が悲しいのか、私の目に涙が溜まっていく。
「迷惑、でしょ?親のいない、汚い家庭で育った私を雇うのは……」
そう言った後で、目に溜まっていた涙がポロポロと零れだした。
頬を伝い、床にポタポタ落ちていく涙。
後ろで彼の溜め息が聞こえた。
「あのさ……誰が迷惑だって言った?」
「えっ?」
「俺は一言も迷惑だなんて言ってないよ?」
「…………でも……」
“ギシッ――”
彼がソファーから立ち上がる音が聞こえる。
こちらに歩いて来る足音。
私の背後で、その足音がピタッと止まった。



