私の体をそっと離したご主人様。
「最後くらい、笑っていようと思ったけど……ダメだ……」
そう言ったご主人様の目は真っ赤になっていた。
それに釣られて、私の鼻の奥がツンとして、目にジワジワ涙が溜まっていくのがわかった。
いつまでもここにいたら辛くなる……。
「ご主人様、私、もう行きますね……」
私は床に置いてあった鞄を肩に斜めに掛けて、キャリーバッグとボストンバッグを持った。
「玄関まで送って行くよ……」
「ここでいいです。送ってもらったら……余計に辛くなるから……だから……ここで……」
「わかった……」
「ご主人様、ありがとうございました」
「こちらこそ。元気でな」
「はい。ご主人様も……」
私はご主人様に背を向けて、リビングを出た。
長い廊下を歩き、玄関で靴を履く。
玄関のドアを開けると、朝の眩しい日差しが目に飛び込んできた。



