「もう、いいですから頭を上げて下さい」
私がそう言うと、ご主人様は頭を上げた。
えっ?
ご主人様、泣いてるの?
ご主人様の頬を涙が伝っていた。
「凛子?俺、凛子といると本当に楽しくて……凄く幸せを感じてたんだ。あのな凛子?俺さぁ……凛子が……」
「それ以上、何も言わないで下さい……」
私はご主人様の言葉を遮った。
その先を聞いてしまったら私……。
「ご主人様と私は、雇い主とメイドの関係なんです。それ以上でも、それ以下でもないんです……」
「凛子……」
ご主人様が私の名前を呟いた。
初めて名前を呼ばれた時には“ドキドキ”していた胸は、今は“チクチク”と痛むだけ。
「私、今日は疲れたので、もう休みますね……」
そう言って、ソファーから立ち上がり、私はご主人様の方を見ないように、涙を必死に堪えてリビングを後にした。



