ご主人様は諦めたんだろうか……。
切れた後、携帯が鳴ることはなかった。
「履歴、見ていいか?」
先生の言葉に無言で頷く。
先生は携帯を操作して、携帯を耳に当てた。
すぐに携帯から「凛子!」と言うご主人様の声が聞こえてきた。
私はベッドに入って、ご主人様の声が聞こえないように頭から布団を被った。
「もしもし、楓か?俺……京介だけど……」
先生の声が布団の中でも聞こえる。
「凛子?ここにいるけど?」
ご主人様の前では先生は私のことを名字じゃなく“凛子”と名前で呼んでる。
動物園の帰りの時もそうだった。
「もう寝てるから……。今日は俺んとこに泊まらすから。明日の朝、そっちに送って行くよ。あぁ……あぁ……わかった……。じゃーな」
電話は終わったのかな?
私はゆっくり布団を捲った。
「ちゃんと話したからな。大丈夫だから」
先生は子供に言い聞かせるように優しくそう言った。



