「佐々木?」



あっ……。


私は顔をゆっくり上げて、声のする方を見た。


隣の部屋の玄関前の廊下にスーツ姿の先生が、こっちを向いて立っていた。



「せんせ……」



私は立ち上がり玄関から離れ、距離はあるけど先生と向かい合う形で先生の前に立った。



「佐々木?」



先生の優しい声が耳に届いて、私の目から大粒の涙がこぼれ落ちていく。


唇を噛み締め、必死に泣くのを堪えていた。



「先生……」


「どした?」



先生がそう聞いてきた次の瞬間、私は走って先生の胸に飛び込んだ。


その衝撃で先生の体が揺れて、先生の片方の腕が私の背中に回った。


涙がどんどん溢れていき、止まることなく流れ続ける。


嗚咽を吐き出しながら泣く私の背中を優しく摩ってくれる先生。


そして私を離した先生は「部屋の中に入ろっか?」と言って、私の手をギュッと握った。