「だからね、アヤさん。ご主人様にちゃんと話して?」
「ダメ……ダメなの……。出来ない。楓に話すこと出来ないよ……」
「大丈夫だから。ご主人様は優しい人だから……。私より付き合いの長いアヤさんもわかってるでしょ?だから大丈夫」
このまま、ここにいたらダメだ……床に伏せて大声出して泣いてしまいそう。
「アヤさん、これ……」
私はテーブルに、ご主人様の部屋の鍵と買い物袋を置いた。
「これ持って、マンションに行って?ご主人様の帰りを待っててあげて?私は友達のとこに泊まるから……。だから……ねっ?」
「凛子さん……ダメ……。私には出来ない……」
首をブンブン左右に振るアヤさん。
「絶対に大丈夫だから……」
私はそう言って、椅子から立ち上がった。
“大丈夫”な保証なんてないのに……。
でも私の口からは“大丈夫”って言葉しか出て来なかった。
私はテーブルに伏せて置いてある伝票を持った。
「あ、私が……」
アヤさんが椅子から立ち上がる。
「ここは私がご馳走します」
「でも……」
「いいから」
私は、マンションの鍵と買い物袋をテーブルに置いたまま、アヤさんの横を通り過ぎて、会計を済ませるとカフェを後にした。



