「もう帰りなさい。送って行くから……。鍵取って来るから待ってて?」
俺がアヤに背を向けた時、背中に“ドンッ”と衝撃があった。
「アヤ……?」
顔だけ後ろを向くと、アヤが俺の背中に抱きついていた。
「帰りたくない……。楓が……楓が好きなの……」
涙がいっぱい溜まった目を上目遣いにして俺を見るアヤ。
一瞬、そんなアヤに“ドキッ”としてしまった。
「アヤ?ワガママ言わないで?」
「私ね……婚約、解消したの……」
「えっ?」
「自分の気持ちを押し殺したまま結婚なんて出来ない……」
「だからって……」
「楓?私を……私を抱いて?」
「はっ?」
「最後に1回だけ私を抱いてくれたら……楓のこと忘れる……ここにも来ない……約束するから……だからお願い……」
アヤが背中に顔を埋めてくる。
「何、言って……」
そんなこと出来るわけない。
アヤを抱くなんて……そんなこと……。



