“カン カン カン――”


鉄の乾いた音が響く。


木造2階建ての汚いアパート。


私はそのアパートの階段を上がっていた。


2階の1番奥が、私と母親が住む部屋。


汚いアパートに良く似合ってる木造の汚い玄関ドア。


私はドアノブに手を掛けて、玄関を開けた。


玄関を開けた途端に、タバコと香水の混じった匂いが鼻について吐きそうになる。


玄関横の部屋から獣のような男の息遣いと泣き声に近い女の声が聞こえる。


薄いドア隔てた向こうで何が起こってるのか……。


経験のない私でもわかる。



「ただいま……」



ポツリと呟くようにそう言った私。


でも“おかえり”なんて声は聞こえるわけなく、ただ耳に響くのは男女の情事の声だけだった。