そんな経験なんて脆く崩れ去ってしまう程、後戻りなんて出来ないくらいにあたし……
彼が好きなんだって
この涙で気付かされた。
放課後の校舎で助けてくれたのも今こうして走って来てくれたのも
自惚れかもしれないけど、……
「ごめん」
え、……?
涙で滲む視界の向こう、イジワルな瞳なんてなくなっていて。
「泣くなって」
気が付けば、涙でぐちゃぐちゃになったあたしの顔を恭一くんが見下ろしていた。
「好きじゃなかったら、こんなことしねぇだろ」
シャツの袖で、あたしのこぼれる涙を乱暴に拭うと、
あたしの左のほっぺに、温かい何かが一瞬だけ、触れた。
「仕返し」
――『……好きっ』
――あの日。
非常階段の向こう側、ふたりで街を見下ろした時。
あたしは彼の左の頬に、キスをした。
一瞬で熱を持った頬を押さえる。
「これが、返事?」
「そ」

