ワラワラとこちらに向かって歩き出す男子の群れに向かって手を振る。



「……っ」

一瞬、呆れたように目を細める彼だけど片腕だけを上げてくれて。

そっけない仕草だけど、あたしは胸がキュンってしちゃうんだ。





「でもさ、ステキ」

――さくらんぼから恋が始まるって。


「比奈、違うよ」

うっとりと目を細める比奈に、あっさりとツッコミを入れるキナだった。



「え、違ったっけ」

しっかりしているように見えるが案外ヌケてたりする。




「あの時はね?」

街を見下ろす景色をふたりだけのモノにして。





* ◇ *


「好きです、すごく」

真っ赤に熟したさくらんぼを、彼の口元に持っていったんだ。


さくらんぼのように甘い甘い夢を見て。



ここからのあたしのシュミレーシュンは。



――『好きだ、ちぇり』

あたしの指ごと、さくらんぼをパクリ。


そしてイタいくらいに、あたしを抱きしめ――…





「……」

ては、くれませんでした。


チラリとあたしを見ると、指の間に挟まるさくらんぼを抜き取り。



「……あま」

口からこぼしたのは、その言葉だけ。


でも、ここであきらめちゃダメ。


崩れていくピンク色の夢を、グッとこらえて見つめる。

ここであたしも一瞬に崩れてしまっては、全部が水の泡。




「また、来てもいいですか」

彼の指を、握る。