「あ、ちぇりちゃん」
久しぶりに見る胡桃ちゃんの顔。
もちろんその隣には――。
「ふふっ、今から帰る所なの」
スルリと隣の彼に腕を巻き付け、甘い声を上げる。
恭一くんの顔が、見えない。
床に張り付いたままの視線も、剥がす勇気はなく。
「ごめん、急いでるから」
重たい足を思い切って踏み出す。
「――……」
ポケットから、琥珀の月を落としていたことも知らずに。
「空也っ!」
キナと比奈の姿がない。
気を遣ってくれたのかな――?
――『全てが分かるから』
空也が会いに来たことと、何か関係しているの――?
ハァハァと息切れするあたしに、懐かしくて、……優しい声色で。
「会いに来ちゃった」
「――、え?」
心の中で、強い風が吹き荒れた。

