Monsoon Town

「あら」

綾香が五十嵐に気づいた。

「これはこれは五十嵐様、この前は父がお世話になりました」

恭しくお辞儀をした綾香に、
「そのセリフ、そのまま返すよ。

じゃ、俺はこれで退散する。

陣内、またな」

五十嵐は手をあげると、社長室を後にした。

「あ、それと」

五十嵐は振り返って陣内に視線を向けると、
「周のお嬢様と結婚することになったら、報告よろしく」

それだけ言うと、五十嵐はまた背中を見せた。

「あいつは何しにきたんだ…」

彼の後ろ姿を見ながら、陣内はため息混じりに呟いた。

それから綾香に視線を向けると、
「お前はお前で何しにきた?」
と、聞いた。