Monsoon Town

「そろそろ出て行くから」

五十嵐が背中を見せたのと同時に、社長室のドアが開いた。

開けたのは、綾香だった。

彼女の後ろには、苦い物を噛み潰したような顔をした藤堂が立っていた。

「おい、陣内」

綾香の姿を見た五十嵐が陣内に躰を向けると、
「これから周のお嬢様とお約束か?」

ニヤニヤと笑いながら聞いてきた。

「いや、俺は知らない。

藤堂、これはどう言うことだ?」

そう聞いた陣内の質問に答えたのは、
「約束もないのに、あたしから会いにきてはいけないんですか?」

綾香が答えた。

カツカツとヒールの音を立て、綾香は社長室に入ってくる。