Monsoon Town

――好きだからつきあいたいの

寄ってきた女から必ず言われたセリフだ。

好きだから、何だと言うのだろう?

つきあったとしても、一生そばにいる保証があるのだろうか?

全てが全て、ウソのように思えて陣内は愛すことができなかった。

全て恵まれていて、全て完璧だったとしても、陣内は誰かを愛すことができる自信がなかった。

「おっと、こんな時間だ」

腕時計に視線を向けた五十嵐が言った。

「これから何かあるのか?」

そう聞いた陣内に五十嵐はニヤリと口角をあげると、
「大事な商談がな。

早く戻んねーと秘書…いや、妻がうるさい」
と、答えた。

どこか嬉しそうに見えたのは、陣内の気のせいだろうか。