Monsoon Town

「それで、俺に結婚の報告をしにきたのか?」

陣内は目の前に座っている長髪オールバックのスーツの男に言った。

「どうせ呼んだってきやしねーだろ?」

長髪オールバックの男――五十嵐雄平が言った。

彼は宝石店の社長で、陣内の大学時代の先輩だ。

「何の用事かと思いきや、お前も結婚か」

「“お前も”って、俺の前に誰かいたのか?」

「医者の友人がな」

「へえ」

五十嵐はニヤリと口角をあげると、
「お前にはそう言うのはないのか?」
と、聞いた。

陣内は呆れたと言うように息を吐くと、
「あいにくだが、俺にはそんなものはない」
と、言った。