「あら」

那智が思い出したと言うように、綾香に視線を向けた。

「あなた、この会社では見かけない子ね」

そう言った那智に、
「ここの会社の社長さんに用があるんです」

綾香が返事をした。

社長と単語を出したとたん、那智の表情が曇ったものに変わった。

綾香は不思議に思って、
「社長さんって、そんなにも冷酷なお方なんですか?」
と、那智に聞いた。

「冷酷?」

「先ほど会った知りあいが、そんなことを言ってましたから」

「そうね…」

呟くように、那智が言った。

「冷酷と言えば、そうかも知れないわね」

そう言った那智の頭に浮かんだのは、この間の出来事だった。