「すみませーん」

カツカツと靴音を立てて現れたのは、横長フレームの眼鏡をかけた女――那智だった。

綾香が「開」のボタンを押すと、那智がエレベーターに乗ってきた。

「ありがとうございます」

お礼を言った那智に、綾香は何も言わず「閉」のボタンを押した。

ガラガラと音を立てて、目の前のエレベーターの扉が閉まった。

綾香はチラリと、那智を横目で観察した。

クセが1つない長い黒髪は、黒いヘアゴムで1つに束ねている。

すっぴん――いや、よく見れば眉と唇に化粧している。

制服のうえからでも、彼女の躰の線の細さがよくわかった。

(もう少し化粧して、おしゃれをすれば、かなり美人になるだろうな)

彼女を頭のてっぺんから足の爪先まで観察した、綾香の感想だった。