かつては、自分が片思いをしていた相手である。

けど今は、
「言っておくけど、あたしに用があるのは社長の方よ」

綾香は森藤に言った。

「社長…ああ、あの冷酷か」

森藤が呟くように言った。

「冷酷?」

そう言った森藤に、綾香は聞き返した。

「あの人は誰に対しても厳しい鬼だから、冷酷なの」

「そう」

「で、その冷酷に何の用なんだ?」

そう聞いてきた森藤に綾香は口角をあげると、
「アプローチしにきた」
と、答えた。

「健気…つーか、あの冷酷に好意を抱くって物好きなもんだな」

そう言った森藤に、
「“ただひたすらに”が、あたしのモットーだから」

綾香は言い返した。