Monsoon Town

結婚なんて珍しいことではない。

高校時代の後輩である北川だって、もうそんな年齢だ。

彼の隣に相手がいるのが当たり前だ。

「陣内」

声をかけられて振り向くと、藤堂がそこにいた。

「藤堂、何か温かいものを作ってくれ」

そう言った陣内に、
「わかった、すぐ作るよ」

藤堂がキッチンへと足を向かわせた。

彼の後ろ姿を見送ると、陣内はソファーのそばに腰を下ろした。

少女の容態は落ち着いたものの、浅い呼吸を繰り返していた。

キッチンからは、リズミカルな包丁の音が聞こえる。

陣内は半乾きの状態の少女の髪に手を伸ばすと、指を絡めた。

絹糸のように細い、黒くて長い髪だと思った。