Monsoon Town

その瞳には、さっきまで自分をにらんでいた鋭い眼光はもうない。

代わりにあるのは、憂いや悲しみをおびたものだった。

まるで誰かを思い出しているみたいだと、綾香は思った。

「ねえ、陣内さん」

綾香に声をかけられ、陣内はコーヒーに向けていた視線を彼女の方に向けた。

そこには、不敵な笑みを浮かべた彼女がいた。

「賭け事って、好きですか?」

「…賭け事?」

突然何を言い出したのかと、陣内は思った。

綾香は思っていた。

彼――陣内の心の中には、誰かがいる。

それが誰かは、自分にはよくわからない。

「夏が終わるまでに、あたしはあなたを落としてみせます」

綾香は宣言をした。