現れたのは、オールバックにスーツを着こなした男だった。

「藤堂」

その名前は、オールバックの彼の名前だろうか。

「ここにいたか」

彼の隣に並ぶと、藤堂が言った。

「社長室にいないと思ったら」

「俺がどこかへ出歩くのは俺の勝手だ。

会社内にいただけでもよかったと思え」

「陣内、怒られるのは秘書の俺だぞ」

「――陣内…?」

どこかで聞いたことのある名前だと、那智は思った。

(確か、この会社の社長の名前って…)

那智がそう思った時、
「その顔は、全てがわかったらしいな」

目の前の男が言った。